Classic Farm  渡辺 光 さん

 

 

太宰治が幼い頃、「うちの土地はどこまであるの?」と、じいいやに聞いた時

じいやが肩車をして「ここから見える四方八方が全部ぼんのうちの土地ですよ」と言ったとか。

たしか「人間失格」の一場面を思わす、思い出してしまいました。

それがClassic Farm さんを訪れて最初に思い浮かべたことです。

 

 

 庄内のとある一本道を辿ってゆくと、突き当たったところに広がる農園。

見渡すかぎり、のすべてがClassic Farm さんの農園です。

明るい広々とした印象を受けます。

 

たんぼがあって、畑があって、ヤギがいて、鶏がそこかしこにまるでのら鶏のようにうろうろして

犬がのびのび走り回って、竹林とブルーベリーとぶどうの木がある。

 しいたけもなめこもとれて、ビオトープもあって、鎮守の森のような静かな神社もある。

 

 大きな古民家を手入れされていて、広いお座敷と囲炉裏があって、おくどさんもあります。

納屋の二階を改装した事務所もあって、整然と農器具が手入れされて置かれている。

 

「理想郷」です。

田舎暮らしや田園生活にあこがれる人にとっては夢が現実になったかのような気分になると思います。

私の1歳のこどもは街中のたばこのにおいがする、埃っぽい公園とは違う、草のにおいがする広場で目を輝かせて駆け回りました。

おいで~おいで~を繰り返す息子
おいで~おいで~を繰り返す息子

 Classic Farm さんは代表をされている渡辺光さんのお父様が、建設業界を退職後に庄内に

移住されてはじめられた農園です。5年の歳月を掛け、沢山の大型機械を駆使し休耕田・畑を整備されて今のような状態に作り上げられたそうです。言うのは簡単ですが、実際に目にするとこれだけの広さをよく整備された、と驚くと思います。

 古民家の修復や素敵な囲炉裏など快適に過ごせるための空間もお父様が造り上げたそうです。

 

農家民泊をされていて体験農業実習も出来ます。

将来的には農園の中で採れたものを料理して出すレストランやイベント会場など、農園そのものを楽しめるような施設にして運営されていく計画のようです。

 

「大豆は上手に出来ました」
「大豆は上手に出来ました」

ブログにも「今後の目標」として書かれた青写真があって、その通りに実現していくのは大変だと思いますが、とても楽しみながらされていて、その過程も丁寧に説明して下さいました。

「最初は牛糞堆肥だったけど、お米を炊いたらその臭いがするのでやめました。」

「鶏のえさは最初は魚粉を混ぜていたけど、ちょっと生臭い匂いがしたので、今は植物性のもののみです。 でも、これだけ放し飼いにしていると勝手にその辺の草を餌として食べてくれる。最近はカエルとかがお気に入りらしいです。」

 

確かに、ものすごく農園のあちこちで鶏を見掛けました。あ、こんなところまで、というように出くわす感じです。

鶏舎は広くて3つにわかれていて、不思議な事にあれだけ自由にうろうろしている鶏も夜になるとちゃんと自分の「家」の鶏舎に帰るそうです。 渡辺さんのお母様がとても綺麗に鶏舎のお掃除をされていました。

風が小屋全体に通って気持ちの良い「家」なんだろうな、と思います。

 

 そんな鶏の産む卵の色はヒスイ色です。薄く、上品な緑色です。

最初見た時は「マカロンやな・・・」と驚いたのですが、中身の黄身はほんのり黄金色です。

卵かけごはんの白身が苦手な私も食べられる程、美味しかったです。

ヒスイの卵を産む鶏は真っ黒でその名も「ブラックワン」白い卵を産む鶏もいて、こちらの卵も美味しいです。

子守もして下さったお母様
子守もして下さったお母様

スーパーに行くと、卵の宣伝で「国内産の米を一部使った安心安全な餌で育った鶏の卵です」というような文句が書かれています。そのお米はどう育てられたものなのか、一部って、その餌の構成はどうなっているのか他に何が入っているのか、何を持って安心安全な餌なのか、では抗生物質などの薬は使っていないのか どういう環境で育てられているのか、疑問が沢山湧いてきます。「安心・安全」を売りにするならその内容をきちんと示してほしい、私は思います。そのような質問に対しても渡辺さんは誠実に答えてくれました。

 

 

 渡辺さんは農園を経営していく過程で最初は「無農薬・無化学肥料で作っています!」と積極的にアピールされてそれを全面的に押し出していたそうです。でも、ある時それを一番の謳い文句のようにするのをやめられたそうです。

 無化学農薬・無化学肥料であるのが当たり前の世の中になってほしい、それが本来の自然の在り方だと思うし、農業をやっていく上でそれが「目的」ではない。美味しいものを作って食べてもらいたい。

 

農園の田んぼでは今年、雑草の発生がものすごく、通常8俵のお米がとれる田んぼでは2俵しか収穫できなかったとか。

来年はレンゲを植えて緑肥にしてみるそうです。

ぶどうも植えてみたけど、うまくいかなかった。綿花(まさしくオーガニックコットン!)も今年は去年に比べて収量が少なかった。

 

 計画通りいかなくても、来年はこうしてみよう、ああしてみよう、という計画を楽しそうにお話ししてくれました。

ぶどうの畑
ぶどうの畑

Classic Farm さんの「スタイル」や「センス」のようなものが私には感じられます。

最初に出会ったのは別府の北浜マルシェです。Classic Farmさんを「素敵な農園ですよ~」とその場で紹介してくれたのは別府の清島アパートに滞在してアート作品を作りだしている安部寿紗さんです。

別府アートマンスにも参加されていて作品のテーマは「お米」。

今年は乳母車に田植えをされて無事、収穫されていました。一見分かりにくい活動をされていますが

「お米」に象徴される日本人の文化に対する深くて、繊細な感受性があってそれを表現されている作家さんです。わたしは、北浜マルシェで安部さんに出会った時に教えてもらった「食経」(じききょう)の言葉に

ちょっと涙が出そうなくらい感動しました。

 

お米のアーティストの安部さんは福岡で展覧会をされた時にClassic Farmの渡辺さんに出会って

「うちの農園でやりたい事をなんでもやっていいよ」と言われて、「まる田んぼ」をつくったそうです。

四角い田んぼが多いので、まるくしてみたそうです。ぐるぐる田植えをしていって最終的には出られなくなるという・・・。Classic Farm さんに出会ってなかったら「おおいた」を知らなかった、別府に来ることも

なかったと思う、とお米展で言われていました。

 

 Classic Farmさんの農園の様子が分かる農園マップも安部さんが製作されています。

とても素敵です。「アーティスト」を受け入れて刺激し合えるほどの豊かな環境や魅力が農園にも

渡辺さんの一家にもあると思いました。

 商品のパッケージひとつとってみても、「らしさ」が伺えるセンスの良さを感じます。

納屋の二階の事務所
納屋の二階の事務所

有機農業の事を消費者にもっと知ってもらいたい、と思う時「デザイン」の力をもっと借りてもいいのではと私は思います。Classic Farmさんはその力を知っていて活用されている農園だと思いました。

 生産物だけでなく、農園を丸ごとプロデュースするという新しい提案がとても素敵だと思います。 きっとClassic Farmという場所で心からくつろげる人は沢山いると思います。

 

 「やりたい事をやるには組織でなく、独立だよ」さらりと言われるお父様。

建設機械を使いこなして大雨のあとの被害も自力で建てなおしたお父様。ローラのお父さんみたい・・・。

整然とした農園の様子は几帳面なお父様によるところが大きいらしいです。

「でも人がちらかしとんのは何も気にならん。」きりっとしてカッコイイ方でした。

 

息子の憧れ建設機材
息子の憧れ建設機材
広いお座敷
広いお座敷
清々しい空気の神社
清々しい空気の神社
おくどさん
おくどさん

Classic Farmさんの名前の由来はあえて聞きませんでした。

農園に訪れたら誰もがその意味が分かると思います。

 

 春には田んぼにレンゲが咲いて(今、レンゲ畑がないのは除草剤の影響が大きい事もあるそうです)

夏にはホタルが飛び交う。いつも動物がのびのび自由にやっていて、オオイタサンショウウオもすむ水辺もあり、果樹の実りも季節ごとに楽しめる。畑にもいろんな野菜が植えられている。

 

 50年か60年前まで、ほんの少し前までは当たり前の光景だったはずです。

昔ながらの里山がどんなに美しいものだったか、失ってしまった光景をまた取り戻せる

そんな素敵な場所でもあると思います。