田舎だから、人口が少ないから、といろんな事をあきらめたくない。だからこその良さや魅力があるのに。とてももったいないことだと思います。今いるところは宝の山です。
噂に聞いていた白いトウモロコシと佐藤さん。
佐藤さんを紹介してくれたのは緒方でガーデンレストランを営むマダム・リョウコと竹田の農家レストランサリモスのおかみさん後藤順子さんです。
「ご両親と一緒にものすごく熱心に土作りをしている。白いトウモロコシなんて見たことないでしょ。」
「サフランもとっても品質がいいの香りがすごい!」
「とにかく何でもやれる人で、いろんな事を計画出来て面白いのよ。」
熱い支持を受けている佐藤さん。どんな方なんだとお会いできるのが楽しみでした。
大分市府内のAlyciaさんにお野菜を配達される時に、わざわざこちらの店に来てくださいました。
竹田市菅生の地域の魅力とサフランとトウモロコシについて語ってくださった佐藤さん。つい、私が「それでそれで?」と夢中になってお話を聞いたもので3時間経過・・・貴重な時間をすいません。
農場での佐藤さん。トレードマークは帽子かな?
佐藤さんのおじいさまが入植されて切り開いた菅生地区の大地は阿蘇山の火砕流が作った湖が決壊してできた台地です。大量の有機物が堆積した肥沃な大地で、作物の育成には適した場所だとか。
七ツ森古墳がある場所なので古代からこの土地で人が生活を営める、地力のあった場所だと思われます。
また、海抜550メートルの高地で寒暖の差が激しく、高原野菜の栽培には適した場所でもあります。
夏でも朝晩の冷え込みはなかなかすごいそうです。
向こうまでトウモロコシ!
菅生は一大生産地です。
おじい様の代からずっと無農薬・無化学肥料、もちろん除草剤も使わずに農業をされてこられたそうです。
私がマーケットでご紹介したいとずっとアプローチをしているくわき農園さんはおじ様に当たられるそうです。(日夜堆肥の研究をされていて、哲学があるとても素敵な方です。)農場の場所も隣接しています。
でも、既存の農業を否定するつもりは全く無く、
「戦後の食糧難の時代はともかく食糧の大量生産が求められたと思う。それに何とかして応えようとした先人の努力には頭が下がります。今は農薬や化学肥料を使わなくても野菜が十分育つし、美味しいし、必要ないから使わないだけ。これから食糧危機が来て、薬品使えば倍の収量になる、とかいうことになれば僕は躊躇なく使います。
だって生き延びなきゃ。」
自宅のすぐ隣にある作業の建物。
その中の一室がサフランの部屋。
溶接も出来る佐藤さんのお父様が建てられたものです。
竹田の名産はサフラン。かつての名産を佐藤さんは蘇らそうとしています。
貴重な薬として以前は薬種問屋と高値で取引されていたそうです。でも、製薬会社が栽培方法を学んで中国などで大量生産を始めるとあっという間に価格が下落。竹田でサフランを作る人は少数になってしまったそうです。
竹田地方独特に栽培方法としては室内開花法があります。それがインドやスペイン産のものに勝る品質を作りだしていたとか。
つぼみの時にめしべを折って、おしべを採取してしまうそうです。その時に薬効が一番あるそうで、すぐに天火オーブンで2時間乾燥させると艶もでてとてもいい状態で仕上がるそうです。
漢方薬として使われていた歴史があるため、今でも薬効については研究がされている植物です。
「今は作っても高く売れる時代ではないです。手間もかかるし。でも自分たちの時代で竹田のサフラン文化を途絶えさせたくないだけ。栽培技術もそれを取り巻く背景や知恵も。それだけの気持ちです。」
東日本大震災の後、その技術は被災地の大槌町に受け継がれたそうです。
竹田の地元でサフラン文化を熟成させようとしているグループがあり、そのグループと大槌町の方が知り合って作り方と球根を送るプロジェクト。
トータルして球根3000玉程が送られたそうです。
佐藤さんも個人的に関わって、生産技術や調理の仕方などのアドバイスを行っています。
「知恵と伝統を継承していくのは一人でも多いほうがいいから。」
サフランには薬でなく、スパイスとしての面があります。もと料理の世界にいた佐藤さんの説明の仕方がものすごく・・・おいしそう!
次から次へと料理が目に浮かぶような説明を繰り広げてくれました。
魚介類とサフランの相性が抜群で、佐藤さんによるとなんでも「美味しさの層が出来る」らしいです。
魚介の生臭みを包んでそれを美味しい風味に変えてしまう魔法のようなスパイスらしいのです。ハマグリの白ワイン蒸しには1人前200~300グラムのハマグリに対してサフラン5~6本が適量だとか。代表的なメニューのパエリアやものすごく違いがわかるのはブイヤベースだそうです。細かく作り方を教えてくれましたが、もちろん作れる自信はありません・・・。
サフラン・ラッシーもとても美味しそうでした。
日本のあっさりした薬味にはない、神秘的な味わい。昔の人が魅せられたことが分かる気がしました。
サフランは球根のままで発芽して、土に定植しなくてもそのまま花が咲くという不思議な植物です。完全自立型・・・素晴らしいと思いました。暗くした専用の栽培室があります。でもその花から一つ一つ手作業で「おしべ」の採取・・・。細かい作業が性格的に無理な私はめまいが。
佐藤さんはサフランを使った料理にレシピを教えて下さる時に5~6本、とか10本とかの単位で分量を説明して下さいましたが、それだけ丁寧な採取なのかな、と思いました。
唐辛子を水で煮出した虫よけ。
化学薬品は一切使わないので、いろいろ実験中だそうです。
肌にこれが付いたら「激痛!」だそうで、痛い目にもあったとか。
このあと咳き込んでましたね・・・。
佐藤さんが実家に戻られて4年。Uターンです。
ゲームデザイナー、調理人、腰を痛めて転職して、大手ネット通販の管理人、東京で新規事業の立ち上げメンバーになって、目途がついた(業界で売上4位)のと後進が育ったのを見て大分に戻られたそうです。
「農園の年収としてはこれくらいだから、心配しなくていい。」ご両親にそう言われて安心してもどったら全然そうじゃなかったという誤算はあったそうですが、4年のうちに「心配しなくていい」年収をはるかに上まる収益を上げたそうです。
ご両親と弟さんとで合同会社を設立して、弟さんが社長、佐藤さんが部長で経理や情報管理などをされているそうです。もちろん農作業も。
「弟のほうがコツコツ地道に丁寧に頑張れるから社長。僕は外に出て行って情報交換して帰って、なんか難しいことを持ち帰りよった、またなんか宿題増えてる、とか家族にはヒンシュク買っています。」
ご自宅の前の農園です。
すぐ隣が道の駅菅生。七ツ森古墳もすぐ傍に。
天候を見ながら朝、農作業のスケジュールを確認して、夕方の出荷に間に合うように配達。地域のいろんなイベントに参加してまたは自ら企画して会合。「家族はまた遊んでいると思っている。実際そうなんだけどね。」
夜はネットを使って情報発信、交換。「なんだかんだで朝方になるときもあります。」
佐藤さんはSNSのシステムを積極的に活用して、地域でのつながりを濃くしていくこと、またそれだけで成立する販路を確立しようとされています。
「高齢化が進む人口の少ない地方で、情報を共有することや連絡が取れること地域の強いつながりが構築出来たらと思います。」
「採算が合うように時間お金のコストを見直して直販することも大事。」
佐藤さんを軸とした放射線状の人のつながりがどんどん伸びていくのがたやすくイメージ出来ました。
佐藤さんのおやつ用「ころたん」
メロンです。栽培をいろいろ考えているとか。
決しておやつ用に終わらない予感が。
だっていろいろ考えられている戦略家だから。
ピーマン・ナス・トマトは収穫の時期を迎えています。蜂がカボチャの花の中にすっぽり嵌って蜜を採取していたり、ナスの紫の色が濃い!と感じたり。雨がぱらついていた曇りの日でしたがその分水を含んで、やけに植物が鮮やかに見えました。一番驚いたのはトウモロコシのひげ。
お店で購入するトウモロコシのひげはすっかり茶色くなっていますが、今から受粉をする出たばかりの「ひいな」と呼ばれる雌穂の美しさにびっくりしました。白くて艶があって葉に包まれてまるで守られていますが神秘的なたたずまいです。
これはひげではなくて、ひいなと可愛らしいお姫様の意味にも通じる名前が付くのもわかるわあ、と思いました。
佐藤さんの説明によると、トウモロコシの先端にある雄穂からパラパラと花粉か落ちてきて受粉するそうです。
まずはひいなが出てきたらほっとするとか。
白いトウモロコシのピュア・ホワイトは結構背の高い品種なので風に倒されやすく、その心配も対策も必要だそうです。
「それまでに折れたり、成長が未発達だと実が上まで詰まらない。いつも心配です。」
トウモロコシの雄穂です。
これから花粉がパラパラと下に落ちます。
「ひいな」本当に美しいです。
佐藤さんからスマホのカメラアプリの紹介が。
すいません、PC関係は家電並みにしか使いこなせないです。
佐藤さんそういう技術を使いこなしています。
それ以前にブレる・・・。
つやつやしていて本当にきれいです。
ここまでがやっと、と言われていました。
私は「もたらされる」という言葉が好きですが、佐藤さんは地域にとってそういう存在だと思います。
ゲームデザイナーで専門的なネットワークの技術と知識を身に着けて、今の七ツ森農業と地域の情報発信と交流の基盤を作り、
料理人の経験により、畑から一皿までの過程が分かる。しかも家庭料理だけでなく、
レストランというプロの料理の事も分かる。大規模なネット通販の経験で流通やマーケティングのことを知っている。
新規事業の立ち上げを成功させた経験と人材育成の管理職の経験も。
キュウリです。
何か野菜の色が鮮やか!
今までの職業の経験を最大限に活かしている人です。そしてそれが必要とされている場所に戻ってこられている。
七ツ森農業の経営・運営だけでなく、地域のイベント企画に積極的にかかわられています。
マラソン大会や音楽会の準備・・・。とことんやってしまうので「次回も・・・」というお声がかかってしまうようです。
結果、激務ですが「遊んでいるようなもんです。楽しいから。」と何度も佐藤さんは繰り返し言われていました。
されていることはバラバラではなく、最終的な目的が一つにつながるようなお仕事の仕方をされていると感じました。
受粉中の蜂。
一見、ほのぼのとした印象の佐藤さんですがものすごい情熱がある人だなあと思います。
「こうしたい」という確かな戦略があって、それを静かに遂行する仕事人です。
地域に新しい風を吹かす、ムラオコシが出来る人材は「若者・よそ者・馬鹿者」と聞いたことがあります。
佐藤さんはそのどれにも当てはまらない、とてもユニークな存在です。
ナス。
綺麗に整えられた畑です。
研修されている方は本当に熱心に
頑張られているそうです。
「もっと体を労わりながらやってもいいのに・・・」
と佐藤さん。
「今、自分が立っているうちの農場のある一帯、こんなに栄養素が豊潤な大地もない。ここは古代から大規模な交易の場所だったことが発掘の出土品などからわかります。さまざまな文化やものの交わる地域だった。もう一度そういう場所になれば、と思います。」
日田のエリアスさんといい、佐藤さんといい、最近出会う、デキル男子は物事の背景にある歴史に強い傾向があると思います。
歴史を知ることで、その土地に息づいてきたストーリーや先人の思いを想像することで、その土地に対する愛着や理解を深めていける気がしました。また、そのストーリーをモノや生産物を通して沢山の人に伝えることが出来る。
地域の地力を蘇らせる、そんな大きなことを楽しみながらやってしまうだろうな、と思いました。
虫よけのここまで細かい網は初めてみました。
トマトも季節をずらして、わりと遅くまで収穫できるとか。
レストランのニーズにも詳しい!
マーケットでは宝石のような白いトウモロコシを出してくれます。
よくある焼きトウモロコシのたれでは甘すぎて、トウモロコシの良さを引き出せないのでなんと使うのは「土佐酢」。
「味を思い出すと・・・あっ、いかんよだれが。」となるくらい美味しいそうです。
種まきも。
苗床からトウモロコシは育てています。
おおいたOrganic Marketは「無農薬・無化学肥料で出来たお野菜は美味しいですよ」という提案や「生産者のみなさんは素敵ですよ」という出会いの場です。
そしてそういうものが当たり前に作られていて、探し回らなくても簡単に手に入るおおいたになったら素敵だなあと思いながらやっています。
でもそのアプローチはあくまで「美味しいし、楽しい!」という単純でシンプルなものにしたいと思います。
頭でなく、体で五感で実感できるのが大事だと最近思うようになりました。
ひまわり。
油が取れたら素敵だし、風よけの意味もあるそうです。
本当に勢いのある畑でした。
お土産に頂いた「インカの目覚め」
佐藤さんのおすすめ通りに
ポテトチップスで。
甘味も香りも見た目も最高でした。
もちろんビールも進む・・・。
いかんよねえ。
佐藤さんとの出会いで、改めてそう感じることが出来ました。
マーケットに訪れた皆さんにも、「美味しい、楽しい。」の両方を十分に味あわせてくれると思います。
佐藤さんは優しくありたい、というような態度でいつも接して下さいますが、なかなか眼光は鋭いです・・・。
これから、何をされていくのかとっても楽しみ。
これからの活動やイベントの情報はhttps://www.facebook.com/satou831で。
盛りだくさんです!