岩田さんの台所・岩田さんのおやつ 岩田史絵さん

 

 

私は強運の持ち主です。

困ったことがあると、必ず知恵を授けてくれる人が現れて何の見返りも求めずに去っていく・・・。

そんなことが今まで何度もありました。モノではなく「知恵」に恵まれる。それは人に恵まれるということでもあります。

 

5月、やっとお野菜がそろうこの時期、やってみたい企画がありました。

それはオーガニックマーケット内のサラダ・バー。

魚市場で新鮮な魚をお客さんが選んで市場内の食堂で好きなように料理して味わうことが出来る。それをオーガニックマーケットでもどうしてもやってみたかった。

サラダ・バーのアイデアも、オーガニックマーケットを力強く応援して下さっている方から頂いた「知恵」です。

 

 臨機応変に美味しいものを作れる人、なおかつマーケットに出店して頂いている生産者の方の農産物の価値を

分かって尊重して下さる方。そんな料理人はいるのかな、と思った時に真っ先に思い浮かんだのが岩田史絵さんでした。

 

 

雰囲気のある室内です。

静か・・・。

陶芸の作家さんの個展のオープニングの時に、その器にふさわしいように盛り付けられた軽やかな料理。

イベントの時に味わったサクサク感が素敵なクッキー。

ビートグラニュー糖を使った、甘夏の甘味・苦味・酸味を引き出したジャム。

フレッシュハーブの組み合わせが新鮮で香り高いハーブティー。

どれも口にすると、「おっ!」と声が上がる美味しさです。

 

 

 

照明もインテリアに合ってます。

他にはない雰囲気。

借り物のインテリアではないんだよなあ。

着ている洋服の感じ、自作のエプロンのセンスといい、雰囲気のある人がいるなあ、といつも気になっていた岩田さん。

お見かけする度に、私はそのお料理やおやつを興味津々で「つまみ食い」していました。

そのうちに、原材料名が明記されてあったり、アレルギー対策として応用できる食材が積極的に使われていたり、 化学合成された添加物が使われていないことなど、安全な材料を使う事にも心を砕いている方だと気が付きました。

 

岩田さんの息子さんが5歳の時に、アトピーを発症したことがあったそうです。

ちょうど半年間、週に一度市販のお菓子やお弁当を食べる機会が続いたこと。

岩田さんが料理のお仕事を再開して、息子さんと一緒に過ごす時間が圧倒的に減ってしまったこと。

また、小学校入学で環境が激変してそれが契機になってアトピーが爆発したそうです。

 

 「それが食材の安全性について、知識を得て実践する機会になった」そうです。

息子さんのアトピーはひざ裏にも出来ていて、夜中は温まるとかゆみがやって来るので両足をあげた状態で寝ていたこともあったとか。また皮膚を掻きすぎてシーツはいつも乾燥した皮膚の破片と血だらけ。毎日洗濯をせっせとしたそうです。

 でも、今9歳になる息子さんの肌はとてもきれいです。

 

 

娘さんのお昼のお弁当。

もりもり平らげていました。

どうやって治したのか興味津々でお聞きしました。

 

 週一回あった添加物を取る機会。それが子供にとっては許容量を超える量だったのではないか。

また、甘いものと油のバランスが悪かったのではないか。

そう考えて、まず半年間は徹底して食事もおやつも全て岩田さんが手作りしたものを息子さんに食べさせたそうです。

 

野菜中心の献立で、野菜は「むぎわらぼうし」さんの無農薬で無化学肥料のもの。グリーンコープのもの。

でもそれだけになると寂しいので、肉類と乳製品も少し。肉類は使ってもささみのみか、乳製品は極力減らして家族と一緒の献立にしたそうです。ちょうど岩田さんも第二子を妊娠中で体重制限にかかっていたので息子さんと一緒の野菜の食事を実践したそうです。

 おやつももちろん手作り。甘味のないおやつとしては、ところてんやプチトマトなどもあったそうです。

調味料も吟味して、化学的な添加物のない丁寧に作られたものを使用。お砂糖は精製されたものは使用せずに、てんさい糖やきび砂糖など。補助食品としてその期間だけはプルーンやプロテインを少し。

 

 

業務用のステンレスがまぶしい台所。

プロの道具はシンプルで本当に素敵です。

それに加えて、毎晩オイル・マッサージをしたそうです。

約3ヶ月間、足のツボを中心にホホバオイルをキャリーオイルとしてアロマオイルのティーツリーがかゆみや痛みに効果あるということで続けたそうです。

アロマオイルのマッサージは今、娘さんにされているそうですが、研究熱心な岩田さん。

オイルを使うとどうしても肌の熱がこもって火照るのでアトピーのかゆみが出てしまうことがあるのですが、 その火照りが少ないヘンプオイル(麻)をキャリーオイルとして使っているそうです。

ずばり、「アロマ・テラピーで痛みとかゆみは治せる」という本を愛読されていました。

 

 

 

お庭にも、季節のハーブと花が植えられています。

私自身もアトピーとは幼いころからの長い付き合いです。

幼いころからはずっと肘とひざ裏をぼりぼり掻いて血がにじんでいましたし、頭皮の乾燥もすごく、金田一耕介のようにかきむしっていました。小学校の先生は心配してくれて「いつ治るんだ」と聞いてくれましたが「こっちが聞きたいよ!」と思っていました。薬をつけなくなるとまた繰り返し。

高校にあがってやっとおさまったのですが、昨年は20年ぶりくらいにぶり返して、全身にかゆいを通り越して痛みがありました。本を読んで俯けば、頭皮から体液がしたたり落ちる・・・。寝ているときだけが唯一安らぐときでした。

 息子さんの症状がひどかった時の話を聞いて本当に鬱陶しい気持ちを思い出しました。アトピーの事以外を考えるのは難しい状況でした。

 

 でも、岩田さんの息子さんのアトピーの克服の仕方にはものすごいヒントがあるなあ!と聞きながら驚きを隠せませんでした。

 

 

英才教育・・・?

ひとつは食事の取り方です。

アトピーになると、食事療法をされる方が多いと思いますが、まず何でも「除去」。あれはたべちゃだめ、これはいい。 極端になると、「これだけはいい。」

でも岩田さんの実践されたのは「いい・わるい」ではなくて、「それよりこれを選ぶ。」というような「選択を変える、置き換える」というような軽やかさがあります。

 

 毎日の食事の調味料の質を変える。野菜だけではなく野菜中心にする。

「寂しくなっちゃうからね」と肉や乳製品も除去してしまわない。家族とできるだけ同じものを食べて、治療食で孤立させない、治療食として作らない。

 食事そのもので「我慢」のストレスがたまらないような工夫があります。

私の息子のアトピーも食事の力を借りて治すことができましたが、そこは乳幼児。5歳の子供とは少し事情が違うと思うのです。いろんな外の世界も知っているし、刺激的な市販のお菓子の味も知っている。

食事のストレスがたまらないようにするのはなかなか難しいと思いました。そこに、岩田さんの料理の腕やセンスのすごさを、私は感じるのです。

 

業務用のオーブン、

泡立て器、

ドリップポットなど・・・。

 

道具屋筋のような。

そこに天然素材の道具が。

ヒントはもうひとつ。オイル・マッサージです。

私は、アトピーは食事だけでも完治は難しいと考えています。どんな病もそうですが「心」が一番その原因を作っているのでは、と思うようになりました。

 就職や進学で環境が変わると、誰しもストレスを感じます。緊張して過ごす時間が多ければ当たり前です。

でもそのささいなストレスがきっかけでアトピーが爆発した、という話をよく聞きます。

 息子さんはお母さんと過ごす時間が短くなっていたことが、こころの負担になっていたのかも、と岩田さんが感じてマッサージで肌に触れて「手を掛ける」ことで安心感を取り戻すことが出来たのかもしれません。

 

精神的な、こころへのアプローチは難しいな、と思っていたのですが、岩田さんの子供へのマッサージでのスキンシップはすごいヒントだ!と思いました。

もちろん、ストレスの原因がわかっていないととても難しいとは思います。

 

私自身のアトピーは体の毒素を排出する時期に来ていたこともありますが、毎日眠れない程の悩みを抱える時間が長かったせいもあります。食欲はいついかなる時も衰えないので、多分いつかは絶対立ち直るだろうな・・・という確信はありましたが。私自身の例で言えば「病は性格からやな・・・」とちょっと実感した経験でした。

 

子供も大人も性格や環境が違うのでストレスの原因なんて、複雑すぎて本当はわからないと思います。

 

でも、とにかく排毒すること、いらないものが体から出て行っていると意識して出すこと。

これは岩田さんが何度も言われていました。

 

 

 

今の時期はミント、タイム、フェンネルなど

いろいろなハーブが庭にあるそうです。

第二子の娘さんは卵と小麦アレルギー。アトピーと食物アレルギーは全く違います。

岩田さんは卵と小麦を使わないお菓子もたくさんのレシピをもっています。そういうお菓子はなかなか売っていません。そして材料の条件は満たしても美味しいかどうかはまた別です。

 

 美味しくて安全なおやつ。岩田さんの台所ではそういうおやつが作りだされています。

 

 ハーブ、アロマは生活の中に生きていてシトロネラ、ラベンダー、レモングラスを配合した虫よけスプレーも作られていました。

 カーテンが嫌い、と御簾やすだれの繊細な影が落ちる室内。お庭との境目が自然な感じで区切られていて他にはない雰囲気の空間になっていました。

お庭のネットに這わせたつる草は「ハニーサックル」。グリーンカーテンです。

和名は「スカカズラ」「金銀花」。アラベスク文様のモチーフになった植物です。

「いや、毎年植え替えとかが大変だから。ゴーヤとか朝顔とかは。これだと冬の剪定だけで大丈夫だし。」

 

 

 

スイカズラ。

本当に可憐な花です。

 

 

こういう風に這わせているお宅は

初めてです。

 

通年あるっていいなあ。

頂いたおやつは豆乳プリン。なめらかな舌触りで、味のコントラストがはっきりするようなイチゴの甘味もしっかりしたジャムが乗っていました。焼いて蒸すと卵豆腐のようなやや硬めの食感にならないそうです。

 

丁寧に作られた暮らしなのに、変な力みが全くない自然な感じ。

「料理は好きだった。作りたい、と思う」という岩田さんの日常が無理なく自然に表現されているような台所でした。

 

ハーブティーと豆乳プリン。

 

プリンは中はとろとろでした。

イベントではなく、日常にあるおやつ。

 

なかなかできないです。

今はフリーのソムリエとして、またケータリングの仕事もされていますが、最初からこの道をずっと選んでこられたわけではない、とのことです。

ずっと大分で過ごされて来て、会社員だった時に「あ、私道を間違えた」と気が付いて方向転換。

何か資格を持たねばと思ったときにワインの勉強なら続けられるかも、と思って会社を辞めてまず、ワイン作りの現場を見るために時期的にタイミングが合った、オーストラリアに行ったそうです。(この辺の発想と行動力がすごいところです。)

 

 ワイナリーを見学して、例の足でブドウを踏む体験もされたとか。

帰国してホテルでの実務経験を経て、ソムリエの受験資格も取得し、その後、酒造メーカーの営業を2~3年してソムリエの資格を取得したそうです。

 別府の小さなビストロの開店から手伝ってほしいと依頼があり、ソムリエとしてサービスの仕事も始められたとか。その時に仕込みも手伝うようになって料理に対する興味が強まったそうです。

「仕込みと言っても、大量の栗の皮むきとかアワビの殻むきとか・・・そういう単純作業です。」

 

その後、結婚されてビストロをやめられてからは、フリーのソムリエとしてホテルでの結婚式のバーコーナーやワインのイベントで活躍されて、ケータリングの仕事も始められたそうです。

 

 「大手酒造メーカーに勤めていた時も、営業としては本当にダメダメな社員だった。売上が上がっても、私が薦めたくない商品を売ることが出来なかったし。」

 「ビストロに勤めた時も、飲食店の経営がいかに難しいか知った。全て有機食材で揃えるのは大変だし、全て手づくりというものが、難しい世界であることも知った。」

 

 今、岩田さんは依頼されて、週に1回「風じん・雷じん」という素敵な喫茶店にお菓子を納品しています。

木曜日に納入すると土曜日には完売されるとか。

 私が頂いた甘夏のジャムも、家族で牽制しあって取り合い、1週間持たない始末。

 

 

こぼれるような笑顔がステキです。

 

毎日のごはんがうらやましい・・・。

ジャムに使うビートグラニュー糖という存在も岩田さんのジャムによって知りました。白砂糖よりてんさい糖を望まれるかたは多いのですが使いこなすのは結構難しいお砂糖です。やさしい味ですが、お菓子に使う時に色があると、特にジャムなどは綺麗な発色にならないことが多い。それでも脱色していない砂糖大根の自然な甘さを求めるかたは多いのです。でも、ビートグラニュー糖というものがあったとは。

 

 最近知ったことですが、しっかりした自然卵の卵を使うと、お菓子を作る際に膨脹剤(ベーキングパウダーなど)を入れずに卵の卵白の力だけで膨らむこと。このことも岩田さんはもちろんご存じでした。

「「むぎわらぼうし」の安形さんの卵もそうですよ。一見、混ぜてみるとコシがないような感じがしますが、全然違う。卵白の立ち上がりの力はものすごい。」

 

 今回のオーガニックマーケットでは岩田さんにサラダ・バーを作って頂きますが、その時も卵を使ったマヨネーズを 作ってほしいとお願いすると、なんと全卵マヨネーズ。

「黄身だけだともったいないし。せっかくのいいたまごだから。全卵で作ると酢の酸味が全面に出たりせずにツンとしないの。マイルドになるから味は工夫がいるけれど。」全卵でマヨネーズが作れるなんて初めて知りました。

 

そんな知識はプロならでは?と思ったら、なんと独学で収集して実践した知識だそうです。

「お店で商品に出会って、よく見ると自分でも作れるかも、と思う。」「自然にそういう知識が集まる」そうです。

 

「岩田さんの台所・岩田さんのおやつ」

一見家庭料理の延長だと感じられますが、ちゃんとプロの仕事場で実践を積んできた方の作る料理とおやつです。

そして料理が楽しい、と感じながら研究を続けている人の自然な健やかさを感じる味です。

「自分ができる範囲で「よいと思うもの」を提供したい。」

 

「手作りと安全な食材」思った以上にその二つを満たしていくのが困難な状況だと、今の食のありかたについて改めて不自然に感じました。

 私が知り合った有機農業、自然農の農家の皆さんの言われることがあります。

「なんかごまかさなくてもいい」「健康に影響のある農薬を使わないでいい。そういう罪悪感を持たずに済む。」

そんな清々しさに共通するものを岩田さんの料理の姿勢から感じることが出来ます。

 

本当の岩田さんの台所にお邪魔して

岩田さんのおやつを頂いてしまった。

 

贅沢な体験でした。

 

 

楚々とした感じの方です。

しっとりした落ち着きがあります。

 

お子さんのアトピーアレルギーの経験から食品添加物や農薬や化学肥料についての知識について学んだと言われる岩田さん。

 

 でも、克服する際の悲壮感などはない、健やかな感じがとても素敵だと思いました。

お母さんとしての揺るぎない安定感のようなもの。いろいろと血の気が多く、単純に暴走するタイプの私にとっては本当に魅力的な方です。

 岩田さんと話すと、一緒にこれもやってみたい!ああいう企画もしたい、ととても楽しいです。

将来的にお店をするというわけではなく、ケータリングの仕事を中心にその場所、その企画を丁寧に楽しみながらしていきたいと話してくれました。

「お店は始めると続ける責任が出てくるから。続けることはとても大切なこと。今の子育てを大事にする暮らしで無理なくできる働き方を考えました。」

 

 今回のオーガニックマーケットでは、当日の朝、参加される生産者の方のお野菜を岩田さんが仕入れて料理して、地粉でクレープを作ってそこにお野菜を選んで巻いて頂くことが出来ます。

調味料も自然卵の全卵マヨネーズ。大分県産100%の蜂蜜も加えています。

 サラダ・バーをどうしてもしたいけど、容器はゴミになるし・・・と考えていたら岩田さんが、小麦を生産されている方もいるのでクレープで包んだら?と素晴らしいアイデアを出してくれました。

 

 生産者の顔を見ながら、その場でそのお野菜が味わえるサラダ・バーにしたい。そんな願いを叶えてくれる、畑の状況を見ながら臨機応変にライブ感たっぷりに料理できる料理人もなかなかいないと思います。

また、お子さんのアトピーやアレルギーを通じて、オーガニックマーケットに出店してくださる生産者の皆さんの作っているものの価値を理解してくれている、素材を大切に料理して下さる方です。

 

そして、食べる私たち消費者にとっては「美味しいものはうれしい!」という食事の根本的な楽しさを味わわせてくれる。

 マーケットで「作る人と食べる人」を結んでくれる、またとない架け橋になってくれる人だと思います。

 

私って、本当に人に恵まれています。とても幸せなことです。ありがたいことです。