新規就農のために1年間研修を受けた宇佐と湯布院ではまるで気候が違う。昨年は本当の試行錯誤で失敗続き。思い切った方向転換も必要なことが分かった。
竹林さんは湯布院で新規就農されて2年目、1年間の研修期間を含めると3年目のご夫婦です。
私が先日お伺いした宇佐の佐藤農園さんの研修生だったかたです。
諭一さんは一年間みっちり、奥様の千尋さんは半年、一緒の研修を受けられたそうです。
佐藤農園の佐藤さんには実際に会いに行ったばかりだったので、研修生の立場からのお話に興味津々でした。
意外にも諭一さんは農薬や化学肥料使う慣行農業でもいい、と考えていたとか。
でも千尋さんは「農薬や化学肥料を使う生産者の体の負担が大きいと思う。暑い中、防護服を着て農薬散布するのは怖いしリスクも高い。自分たちの健康がまず心配だったから。」
そうして、宇佐の有機農家、佐藤農園さんの研修生としてスタートしたそうです。
家の裏の畑です。時間を見つけて千尋さんが
ハーブを植えています。
一年間は本当に「修行」の毎日だったそうです。
「ピーマンの草取り担当」「ビニールハウスのトマトの選枝担当」となると同じ作業が延々に続いて、収穫もキュウリ・ズッキーニは朝晩二回の作業、など休む暇もないくらい大変だったそうです。
夕食が終わって、9時頃に帰って、次の日は朝5時から作業。
「修行は本当に修行だった。農業は同じ作業を延々と続けることが大変だと思います。広大。一畝40メートルを一人が一週間掛かって同じ作業をする。1000株のトマトを植えたら、その枝を二本仕立てにする整枝。一週間かかります。」
エキナセア、カレンヂュラなど。
「体力的にも精神的にもきつかった。 でも本当にやっていけるのか、農業・農作業に免疫をつけていく上で欠かせない時期だったと思います。」
奥さんの千尋さんも一緒に研修が出来でよかった。と言われます。だからこその今の二人三脚です。
その修行期間を思えば、今は全然問題にならないほど農作業は辛くないそうです。
「あの時があるから今があると思っています。」
研修期間を終えて、どこで就農するか紆余曲折を経てやっと湯布院の地に辿り着いたそうです。
「ここに拠点を決めるまでが大変でした。精神的にもきつかった。やっと最近落ち着いて楽しいと思えるようになった。」
「水にはとても恵まれています。」
畑のすぐそばを流れる谷川。
クレソンが盛大に生い茂っています。
おひたし美味しいなあ。
実際に畑に連れて行って頂きました。
竹林さんのブログには作業の過程などが細かくつづられています。すごいな~と感じるのは、失敗も包み隠さずに全て書いていること。全然見栄を張ったりするところがない。その時思ったこと「今日はキツイ。」とか、「ちょっと手を抜いたら見事に病気が蔓延で困った」「よく働いた!」そんな素直な、リアルな感情が描かれていました。
廃菌床です。
特に新規就農の昨年一年間は文字通りの試行錯誤だったそうです。
「寒冷地の湯布院と研修した宇佐は全然気温も気候も違います。湯布院は研修を受けた宇佐とはまるで違う気候だった。寒いし、ものすごくよく雨が降る。日照時間も少ない。一年やってみて宇佐とはだいたい1か月、へたしたら1か月半くらいの季節の変化の差があると実感した。種まきや定植の時期も少しずらさないと寒さでうまく育たなかったり、
苗の支えの仕方も同じ方法では支えられなかったり。」
「ものすごく失敗もした。思い切った方向転換も時には必要です。」
カボチャ
宇佐より狭い間隔で植えています。
「そのままが通用しないことも多かった。だから今年のカボチャは佐藤農園より畝の幅と株間を狭くしています。
定植時期が遅かったり、日照時間や生育期間の違いで宇佐のかぼちゃほど大きくならずにシーズンが終わるからです。」
整然とした、ナス、ピーマン畑。
「ちょっと佐藤農園みたいでしょ。」
本当にデジャヴを感じました。
「ピーマンやナスの枝を支えるやり方。
宇佐の佐藤農園ではピーマン、ナスは「トンネル栽培」です。苗が活着し(苗の根が畑の土にしっかり伸びた状態)茎も強くなるまでトンネルがけして育て、トンネル撤去後に畝上に張った紐に固定します。去年はトンネルを使わず定植後すぐに固定しましたが、固定した先から折れる株がありました。紐に固定するにはまだ軟弱な苗で大きさもまばらだったからのようです。今年は添え木を苗一本一本にしていくやり方です。」
ここまで苗でそだてて簡単に折れてしまったら、その損害たるや・・・。一から育てる時間もないし、取り戻せないことが多すぎます。想像するととても心が折れそうな。
すごく見守っています。
ナスはタネから育てた中長、大長、苗からの米ナスの3種類をピーマンは甘長とうがらし・伏見・ピーマンの3種類を植えられています。
5月に入ってから定植したそうです。
「宇佐ではナスやピーマンは8月半ばまで持たない。暑すぎて終わってしまう。
でも湯布院では7月後半から終盤にかけてが収穫のピークです。時期が本当にずれています。」
湯布院ではオクラは作っている人が少なかったそうで、やってみたとか。
「でもうまく育たなかった。寒いとダメな野菜。作る人が少ないわけを実感。」
もとは棚田の畑です。湿気はやはり多いし、上の棚の高さが下の畑に影を少し作ってしまうので日陰は育ちにくい。その分だけわずかながら耕作面積が減る。
上の畑と下の畑です。
考えても見ませんでしたが
下の畑に影が出来きます。
「しかも今回は虫が出てこの畑はほぼ全滅。ヨトウ虫。
雑草ですら食い荒らしてしまった。せっかく苗から作った固定種の三浦大根もこの通り。
原因がまだ分からない・・・難しいですね。」
結構広い面積が被害にあったと分かりました。切ないほどです。
これがヨトウ虫です。
見えにくいですが・・・。
ものすごい食欲です。
せっかくの三浦大根が・・・。
「マルチフィルムを張るのも技術が必要。でも張っても下から草が浸食しまくりです。
今度から使用するのをちょっと考えようかなと思います。」
「家庭菜園と農家の作る野菜の種類は違う。
このあたりの家庭菜園をしている人のジャガイモの定植の時期に合わせて植えたらうまくいかなかった。
品種が違ったことがわかった。人間が自然のその植物にあったサイクルに合わせることが必要なことも分かった。
農家も珍しい野菜を育ててみたいという気持ちもあるし、肥料も違う。家庭菜園との微妙な違いもわかった。」
もはやマルチフィルムが見えません。
肥料は塚原の酪農家から頂く牛糞堆肥、植物性の発酵肥料のぼかし、動物性の発酵肥料のスクスクという市販のもの。初めての試みですが、辻馬車の営業中に出た馬糞を頂いて堆肥を作っているそうです。ちょっと小山の馬糞も見せてくれました。
廃菌床を利用して畑の草抑えの工夫もしています。
小松菜。
葉が育ちきる前に花が咲いてしまったそうです。
小麦は初めて作ったのが大成功だったそうです。
私が伺った時もたくましく綺麗な緑で育っていました。
最初はなかなか大きくならず、大丈夫かな、と思っていたらいきなり4月から急成長でびっくりしたそうです。
「ハルヨコイ」パンが作れる小麦です。
「これから脱穀の仕方などを勉強しないと。作りたかったので作ってみました。」
九州でパンが作られる小麦の種類はとても少ないことをマーケットに関わって教えて頂きました。同じ品種でもパンになるかどうかは品質の問題もあるし、収穫がとても難しいことも知りました。
「ただし、「今のところ」大成功。梅雨が心配ですがうまく収穫できることを願っています。」
勢いのある小麦の様子です。
実が詰まるのがもう少しだけかかりそう、
な状態でした。
収穫のタイミングはとても
難しいとか。
雨にあたると発芽してしまうことも。
九州産のパンが作られる、しかも大分県産の無農薬・無化学肥料のもの。これからもっと需要がのびそうです。
オール大分県産のものが出来るかも!とわくわくしました。
玉ねぎは早生・中生。
チンゲン菜・固定種の種から育てた三浦大根など。
ズッキーニはダイナー・オーラムという種類。
金時ショウガ。千尋さんが食べたくて作っているそうです。甘酢漬けが焼き魚には欠かせない薬味だとか。
金時ショウガ。
すこーしだけ芽が出ています。
畑は土だけの状態。
掘り起こして見せてくださいました。
千尋さんはアロマセラピーの勉強をずっとされていた方で、自家栽培もディル・エキナセア・カレンヂュラ・レモンバームなど。手作りのクリームを見せて頂きました。思わず商品開発の話題になる私。
「たとえハーブが全て自家栽培でも、質が問題です。私が消費者の立場だったらアロマオイルとして素性や薬効が確かなオイルを使ってほしい。ただ手作りなだけ、ということではなく・・・。」
千尋さんの真摯な答えが心に響きました。自分の店の経営の仕方の姿勢もそうしなきゃ、と改めて気づかされました。
カレンヂュラ。
キンセンカ。
西洋のオーガニックコスメには
よく使われています。
去年は千尋さんが出産されて、諭一さんがその間わりと一人の作業を延々続けたそうです。
今年は千尋さんも子育てをしながらバリバリと働かれています。
昨年、こんな素敵なご夫婦がいるよ、と由布ポタジェの佐藤周二さんからお聞きしていました。
それから間もなく竹林さんご夫婦がまだ倉庫のようだった私の店に訪ねて来てくださいました。
まだ生まれて間もない芽惟ちゃんも一緒で、なんて若い二人なんだろう、という印象でした。
でも話して下さることが興味深くて、いつか絶対農園に伺いたいと思いました。
諭一さんと千尋さんはどちらかが主導権を握るような感じではなくて、対等なパートナーのような清々しさが素敵だなあと思いました。
一日のスケジュールかも。
千尋さんは千葉県出身。諭一さんは大分の津久見出身。東京でまだお互い大学生の時に知り合われたとか。
趣味人口がなかなか少ないと思われるラフティングのクラブ活動。
社会人になって諭一さんがやっぱり農業をしたい!と思われた時が結婚のタイミングだったそうで、千尋さんも一緒に新規就農の説明会にも出かけられたそうです。
一緒に、というところが同じ方向を向いていて、覚悟を共有していていいなあ、とちょっとうっとりしました。
(最近、ひとさまのなれそめを聞くのがとっても楽しくなってきました。どんな年齢の方も少しはにかんだ様子で話して下さるのが、人間味が感じられて嬉しくなってしまう・・・妙な楽しみを覚えてしまった。各方面で結構ぶしつけな質問をしているかも。していますね、すいません。)
このラベルがあるとないとでは
印象が全然違います。
素敵なセンスです。
ラベルの試行錯誤のあとも見せてくださいました。
大分県の就農説明会の様子、他県との違いなども話してくれました。
「有機農業では食べていけませんよ。」からの説明だったそうです。その部分を押しての新規就農だったようです。
諭一さんには都会でのサラリーマンの人生を捨てて選んだ「道」があります。
千尋さんも諭一さんに流されて、という選択ではなく自分の意思で決めた生き方です。
だから話し方は言葉を選びながら、とても穏やかですが、並々ならぬ情熱を端々に感じました。
ズッキーニです。
わらを敷いたものとそのままのもの。
違いを実験中?
「これから自分が農業を続けていく上で、大事にしたいことは「代替可能な技で農業をする」ということです。
何かが無ければ成立しない技術というのはとても危ういものです。
例えば、苗床の踏み込み温床。電気が無ければ温められない、のではなく自然界にある落ち葉などの発酵熱を利用する。堆肥の牛糞が見つからなければ、湯布院名物の辻馬車の馬糞を利用する。それも入手出来なければ草木を使用する、そしてその堆肥で賄えるだけの耕作面積にする。
今はF1種が手に入らなくなった時のことを考えて固定種や在来種に積極的にチャレンジしたい。」
雑草さえ食べるヨトウ虫。
おそるべし。
「安心安全な食べ物というのは、結局は基準で測れないと思います。
そもそもその基準は「誰」が作ったものなのか。結局は「あなたが作ったものだから、あなたを信じて食べる」というその人に対する信頼感で判断されるのだと思います。そして選択して食べる消費者も自分で判断するという自立が必要なのかな、と。」
「有機農法とか自然農とかやり方はいろいろ。いろいろなやり方があるからこそ面白くて、それぞれの場所も違う。違いを認め合うのがいいのではと思います。」
虫の被害が著しかった場所です。
「有機農業と慣行農業の違いは土を物理性・化学性・生物性に分けて対処するのではなく、総合的に観察して問題点を判断することかなと思うようになりました。これまでの農業だと『物理性はトラクタで、化学性は土壌分析を元にした施肥で』というようにシンプルな対処法があります。農薬を使ったコントロールはとても効果的で確実。
だけど自然界は全ての要素が複雑に絡み合っています。畑でも複雑なままでいいんじゃないかなって感じています。ミミズ、虫、微生物、菌など、たくさんの種類の生物がたくさんいて、誰かが欠けても補完する仕組みがあって安定してるということです。」
「既存の農業のやり方について批判したりはしない。そういうシステムで成り立っている社会への批判ではなく
反省が必要なんだと思う。ありえない値段の「食事」や「食品」が流通していること自体が怖い。
それが壊れた時に次に打つ手はあるのか?次のシステムについて考えることこそが一番重要です。」
スナップエンドウです。
新規就農はとても難しい、結局は地域にも農業にもなじめずに離農してしまう若者も多い、と聞きます。
なにかとても悲壮感漂う話をよく耳にしました。
でも実際とても苦労はされていると思うのに、諭一さんと千尋さんにはそういう悲壮感のようなもの、妙な堅苦しさがまるでありません。
「金時ショウガが美味しくて、沢山食べたいって千尋が言うから作ってみようと思った。」
「新玉ねぎをみじん切りにしてマヨネーズと胡椒を振ってトーストに乗せて焼くと信じられないくらい美味しい。」
「将来はハーブをもっと植えたい」
「去年よりも今年は進歩している!」
未来に向かっての希望が自然に出てくるような感じです。明るい!
毎日のコツコツとした努力に裏打ちされているような健やかな明るさ。
見晴らし最高です。
由布岳が雨の合間に出てきました。
農園に伺って、「なんか楽しかったなあ~」と独り言をつぶやきながら帰りました。
頂いた新玉ねぎは甘く、瑞々しかったです。
きっと竹林畑のお二人が作っているものだから食べたい、というファンがもっともっと現れると思います。